腫瘍科認定医からのごあいさつ
近年、わたしたちの家族である動物たちは非常に長生きになってきました。それに伴い、人と同じように腫瘍が増えてきています。近年では犬の約半数、猫では約1/3が腫瘍によって命を落とすと言われています。
まさき動物病院には日本獣医がん学会による腫瘍科認定医2種取得者が2名在籍しています。2種認定医は“腫瘍診療のための専門知識および一般臨床知識を有する者”であり、専門知識を駆使してオーナー様の不安を軽減し、患者である動物たちの苦痛を取り除くために尽力させていただいています。

副院長 湯浅 朋子
◇資格:獣医腫瘍科認定医II種

副院長 柳本 勲
◇資格:獣医腫瘍科認定医II種
腫瘍科の
症例報告・治療実績
現在、腫瘍科の症例紹介はありません。
このような症状はありませんか?
診察室では症状を示さない場合もありますので、ご家族の皆様が少しおかしいと思ったら、
是非ご自身で動画を撮っていただき、まずはお気軽にご相談ください。
- 食欲がない
- 寝ている時間が長い
- 体の表面にしこりがある
- 体から血が出ている
- 最近下痢や嘔吐が多い
ご相談が多い主な病気
犬の代表的な腫瘍
リンパ腫
病気について
犬のリンパ腫は、体中にあるリンパ節や内臓にできる血液のがんです。首や足の付け根のしこりから気づくことが多く、元気消失や食欲不振が見られます。
診断と治療
診断には、針で細胞を取って調べる検査(細胞診)が有効で、血液検査やレントゲン、超音波なども併用されます。治療の中心は抗がん剤で、人と同じように点滴や飲み薬での治療が行われます。
治療により症状が改善することが多く、生活の質を保ちながら過ごせる期間が期待できます。
乳腺腫瘍
病気について
特に避妊手術を受けていない中高齢の雌犬によくみられます。乳首の周囲にしこりができ、触るとコリコリした感じがあるのが特徴です。良性と悪性があり、外見だけでは判断できません。
診断と治療
しこりを手術で切除し、病理検査で性質を調べることで確定診断がつきます。悪性の場合は、肺などに転移する恐れがあるため、早めの治療と定期的な検査が大切です。若いうちの避妊手術で発生率を大きく下げることができます。
脾臓腫瘍
病気について
脾臓はお腹の中にある血液の貯蔵庫のような臓器で、腫瘍ができても初期には症状が出にくいです。
よくある症状
中でも「血管肉腫」は破裂してお腹の中に出血することがあり、急に倒れたり、元気や食欲がなくなることで発見されます。
診断と治療
超音波検査やレントゲンで脾臓の腫れや出血を確認し、確定診断には摘出後の病理検査が必要です。
治療は脾臓の摘出手術で、悪性の場合は抗がん剤治療を併用します。早期発見が難しい腫瘍の一つです。
猫の代表的な腫瘍
リンパ腫
病気について
猫のリンパ腫は血液のがんで、胃腸・胸部・鼻腔・腎臓など様々な部位に発生します。特に猫白血病ウイルス(FeLV)との関係が強く、若齢猫ではウイルス感染による発症が多いです。高齢猫ではFeLV陰性でも発症し、腸管型リンパ腫がよく見られます。
よくある症状
症状は部位によって異なります。
- 嘔吐
- 下痢
- 体重減少
- 食欲不振など
診断と治療
診断には血液検査、画像検査、生検(針生検や内視鏡)を行い、治療は主に抗がん剤(多剤併用療法)で生存期間の延長が可能です。
乳腺腫瘍
病気について
猫の乳腺腫瘍は、80〜90%以上が悪性といわれています。特に未避妊のメス猫ではリスクが高く、若齢での避妊手術が予防に有効です。しこりは最初は小さくても、短期間で急速に大きくなったり、潰瘍化したりします。転移もしやすく、肺やリンパ節へ広がることも少なくありません。
診断と治療
診断は摘出後の病理検査によって行われます。
治療は外科的切除が第一選択で、可能であれば片側または両側の乳腺を一括して摘出します。早期発見・早期手術が長期的な予後を左右します。
口腔内腫瘍(扁平上皮癌など)
病気について
猫の口の中にできる腫瘍で最も多いのは扁平上皮癌です。特に舌の下や歯茎にできやすく、進行が早いのが特徴です。
よくある症状
下記のような症状が見られるようになります。
- 食べにくそうにする
- 口臭が強くなる
- よだれが増える
- 顔が腫れてくるなど
診断と治療
腫瘍は骨にまで浸潤することがあり、見つかった時点で手術が難しいことも多いです。確定診断には細胞診や組織検査が必要です。
治療には放射線療法や電気化学療法、抗がん剤、支持療法などが選ばれますが、予後は厳しいことが多いため早期発見が重要です。
腫瘍を診断するには?
腫瘍が疑わしい場合には、それが本当に腫瘍なのか、腫瘍ならどんな種類なのかを知る必要があります。また悪性腫瘍であれば、腫瘍の広がりを評価する必要が出てきます。そのための検査としては、以下のようなものがあります。
細胞診検査、病理検査
腫瘍と思われる塊から針で細胞を吸引して顕微鏡で観察したり、塊の一部を刃物などで切り取って、専門機関で組織を診てもらい診断する方法です。病理検査が最も確実な診断につながりますが、塊がお腹の中など深いところにあったり出血しやすい臓器にあったりする場合もあるので、方法は患者さんの状況によって選択します。

画像検査
腫瘍の発生場所を特定したり、転移が起きているかどうかを調べたりすることができます。当院ではレントゲン検査、超音波検査、消化管内視鏡検査、CT検査を実施することができます。内視鏡検査とCT検査は全身麻酔が必要になりますが、治療方針を決めるための多くの情報を得ることができます。また神経系の腫瘍が疑わしい場合は、他施設をご紹介することにはなりますがMRI検査をおすすめしています。

血液検査
患者さんの身体の状態を評価したり、腫瘍の種類によっては腫瘍細胞を検出したりすることができる、簡単でなおかつ重要な検査です。

腫瘍が見つかったら?
腫瘍の治療は3本の柱に例えられます。それぞれにメリットとデメリットがあり、オーナー様と十分に相談して方針を決めていく必要があります。
外科治療
手術によって腫瘍を取り除く治療で、最も効果的であるとされます。全身麻酔が必要であり痛みも伴う患者さんの負担が大きい治療ですが、完全に切除できれば完治が期待できます。麻酔や痛みの負担を十分にコントロールして実施します。完全切除が見込めない場合でも、患者さんの苦痛を取り除く効果が高ければお勧めすることもあります。

化学療法
いわゆる抗がん剤です。血液のがんの治療や、外科で取りきれないケース、遠隔転移の可能性があるケースなどで使用を検討します。当院は比較的多くの種類の抗がん剤を有しており、腫瘍の種類によって使い分けています。副作用の怖さが先に立ってしまい抵抗を感じられるオーナー様も多いと思いますが、まずは獣医師と相談していただければと思います。

放射線療法
放射線を当てて腫瘍細胞の成長を止めたり殺したりする効果が期待できる局所治療です。外科摘出が困難な場所の腫瘍や、なんらかの理由で外科ができないケース、外科手術で取りきれない腫瘍などで検討されます。動物の場合は複数回の全身麻酔が必要であり、また専門施設を受診していただく必要があります。患者さんに必要であると判断され、オーナー様の承諾が頂ければ、主に岐阜大学附属動物病院放射線科をご紹介させていただいています。
がんの新しい治療法
「電気化学療法(ECT)」
電気化学療法は、がんの種類を選ばすに治療ができ高い治療成績が報告されています。手術や放射線治療と並び、今後のがん治療として大きな期待と注目が寄せられています。当院では有効ながん治療の可能性を広げるため、導入しました。1~2回の治療で効果が期待でき、副作用も少ないため負担をかけることなく治療が可能です。

- 施設の制限(⼤学病院)
- 頻回の⿇酔
- 放射線被曝

- 固形がんには不向き
- 全⾝の副作⽤

- 術者の技術に依存
- 形態・機能⽋損 例:断脚・眼球摘出
電気の力で、がん細胞に薬をより効率的に届けるための治療法です。
抗がん剤を注射したあと、腫瘍に弱い電流を流すことで、がん細胞の膜が一時的に開き、薬が細胞内に取り込まれやすくなります。
これにより少ない薬でも高い効果が期待できます。

抗がん剤は投与しただけではがん細胞に十分に取り込まれません。がん細胞に電気を加えると細胞膜が開きます。

抗がん剤ががん細胞に取り込まれやすくなります。
(最大5000 倍)

抗がん剤の作用によりがん細胞は死滅します。
電気化学療法のメリット
- 手術が難しい部位の治療が可能
- 手術との組み合わせも可能
- 周囲の正常な組織への影響を最小限に抑えられる
- 全身の副作用がほとんどなく、回復も早い!
- 被曝がない(放射線治療と比べて)
- 少ない回数で治療可能なため通院のストレスを抑えられる
- 日帰りでの治療が可能(全身状態の評価が必要)
電気化学療法のデメリット
- 局所治療のため全身のがんには不適
- 全身麻酔が必要(15分程度)
- 巨大すぎるがんには効果が弱い→手術との組み合わせが効果的
- 局所の副作用あり(軽度の火傷様→通常3~7日程度で治癒します)
治療の流れ
- 治療日を担当医と決めます
- 事前に術前検査をします(治療日の1-2週間前)
- 当日午前中にお預かりします
- 全身麻酔→抗がん剤を注射→専用の機械を腫瘍にあてて電気を流す(全部で15分程度)
- 体調を確認して、日帰り又は1泊入院となります

適応するがんの種類
ワンちゃん
- 扁平上皮癌
- 悪性メラノーマ
- 鼻腔内腫瘍
- 肥満細胞腫
- 軟部組織肉腫
- 髄外性形質細胞腫
- 肛門嚢アポクリン腺癌
- 棘細胞性エナメル上皮腫 など
ネコちゃん
- 扁平上皮癌
- 鼻腔内腫瘍
- 肥満細胞腫 など
※他にも適応できる腫瘍はあります。

当院の治療機器:ELECTROvet EZ4.0(フランス製)
実際の症例
症例1 口腔内にできた腫瘍に対する治療例
治療前

ECT治療前①

ECT治療前②
治療後

ECT治療3ヶ月後①

ECT治療3ヶ月後②
症例2 体表にできた腫瘍に対する治療例
治療前

ECT治療前①

ECT治療前②
治療後

ECT治療1ヶ月後①

ECT治療1ヶ月後②
症例3 足裏にできた腫瘍に対する治療例
治療前

ECT治療前
治療後

ECT治療後
その他の治療方法
当院では電気化学療法研究会に所属し、国内での治療例を共有し、当院での治療に活かせるように取り組んでいます。電気化学療法の普及とともに、がん種の適用の幅を広げる取り組みも行っております。
「うちの子にも使えるのかな?」と気になった方は、ぜひ一度ご相談ください。その子に合った最適な治療方法をご提案いたします。
光線温熱療法
光線温熱療法は、がん細胞が42℃で死滅するのに対し、正常な細胞は45℃まで大丈夫であるという性質を応用したものです。この温度差を利用してがん細胞のみを壊死させる治療方法です。少量の薬液を患部に注入した後、温度管理しながら近赤外線を20分間程度照射させることを何度か繰り返します。腫瘍の場所にもよりますが、全身麻酔が必要になることが多いです。

BRM療法
いわゆる抗がん剤です。血液のがんの治療や、外科で取りきれないケース、遠隔転移の可能性があるケースなどで使用を検討します。当院は比較的多くの種類の抗がん剤を有しており、腫瘍の種類によって使い分けています。副作用の怖さが先に立ってしまい抵抗を感じられるオーナー様も多いと思いますが、まずは獣医師と相談していただければと思います。

ステント治療
癌そのものを取り除くのではなく、癌によって尿管、尿道などの構造が狭窄し、QOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)が低下するのを防ぐ為に、これらの管腔臓器を広げるための「ステント」と呼ばれる医療機器を挿入する治療方法です。

緩和ケア
末期がんに対しての治療と思われがちですが、がんと診断されてから治療期間を通して患者さんとオーナー様双方に提供するケアです。さまざまな心理的・身体的苦痛を和らげて、QOLを向上させるための対応を行なっています。オーナー様とじっくりお話をするところから始まりますので、遠慮なくご相談ください。
他の病院との連携
検査や治療の方針によって、以下のような病院をご紹介させていただいています。
- 検MRI検査が必要な患者さん→岐阜大学附属動物病院、ひだまり動物病院(岐阜県)、長屋動物病院(名古屋市天白区)
- 放射線治療が必要な患者さん→岐阜大学附属動物病院、南動物病院(三重県伊賀市)
- セカンドオピニオンを希望される場合→日本動物高度医療センター(名古屋市天白区)