腫瘍性疾患
まさき動物病院は、腫瘍の診療に力を入れています。
近年、オーナー様の飼育の質が向上してきたことで、動物たちは非常に長生きになってきました。それに伴い、人と同じように腫瘍の病気が増えてきています。近年では犬の約半数、猫では約1/3が腫瘍によって命を落とすと言われています。
まさき動物病院には腫瘍科認定医2種取得者がおり、この病気に対抗するために、さまざまな方法で診断・治療を行なっております。オーナー様の不安を軽減し、協力していただきながら一丸となって腫瘍と戦い、あるいはうまく付き合っていくために私たちが行なっている診療の内容をご紹介します。
腫瘍に気づくためには
腫瘍を治療するためには、何よりまず発見することが必要になります。
発見が早ければ早いほど、戦いには有利になります。
では、腫瘍は実際、どのようにして発見されるのか?実際のシチュエーションをご紹介します。これらを参考に、ぜひ日頃から気をつけていただければと思います。
体を撫でてあげていたら皮膚のできものに気がついた
一番よくある場合です。犬の場合は皮膚のできものの2/3は良性ですが、猫の場合は2/3が悪性であると言われています。気になったらひとまず早めに動物病院を受診しましょう。きちんと診断してもらえば安心です。
ワクチンやフィラリアなど、予防で受診した時に身体検査で発見された
獣医師はある程度、年齢や性別などにより腫瘍ができやすい場所を把握しているので、中高齢の犬猫たちが予防目的で来院すると、念入りに診ます。その時に皮膚や乳腺のできもの、口の中のできものなどを発見できることがあります。予防で年に数回動物病院を受診するのも、健康を守るためには大切な機会です。
健康診断で発見された
健康診断を受けると、特に症状がない場合でも、レントゲン検査や超音波検査で体の中のできものを発見できることがあります。体の中のできものは、特に症状がないことも多く発見が遅れる場合があります。6歳くらいの中年齢から、定期的に健康診断を受けることをお勧めします。当院ではワンニャンドッグという健康診断をお勧めしています。
何処かから出血しているかも・・・?
歩いていたら地面に血がついた、よだれに血が混じる、鼻水に血が混じる、尿に血が混じる、便に・・・など。必ずしもではないですが、腫瘍が見えないところにできている兆候の一つであることがあります。すぐに治るなら良いのですが、続くようなら動物病院を受診しましょう。適切な検査で発見してもらえます。
腫瘍の診断
腫瘍が発見できたら、病院に行っていざ診断です。
良性なのか、悪性なのか、どんな特徴を持った腫瘍なのか?どうやって戦えばいいのか?
治療へつなげるためには、その腫瘍についての情報が多ければ多いほど有利になります。
「診断」には大きく2つの要素があると考えられます。
ひとつは、「腫瘍の種類」。
もうひとつは、「腫瘍の進行度合い」。
どちらもとても大切な情報です。
腫瘍の種類
たとえば皮膚にできたできものひとつを取っても、「扁平上皮癌」「基底細胞腫」「肥満細胞腫」など、色々な種類の腫瘍があります。どの腫瘍なのかがわかると、その腫瘍の特徴や今後の動向がわかり、どうやって治療をするべきかがわかります。
腫瘍の種類は、ほとんどの場合は病理検査で確定することができます。病理検査とは、当院で腫瘍の一部、もしくは全部を切除して、その組織を専門の病理の先生の元に送ると、この組織を処理したものを顕微鏡で見て、細胞の見た目や広がり方などから種類を特定してもらえます。中には細胞診という、細い針で腫瘍から細胞を抜き出し、これを染色して顕微鏡で見る方法で診断できる場合もあります。
院内である程度の診断ができる場合もありますが、基本的には外注検査となるため、診断がつくまでに1週間〜10日ほどの時間がかかります。
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病理検査の画像です。これは「血球貪食性組織球肉腫」という腫瘍で、脾臓にできたために脾臓を全摘出し、病理検査に提出しました。
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細胞診の画像です。これは首の皮下にできた甲状腺癌から、針で採取した腫瘍細胞です。細胞診では多くの場合は確定診断はできないのですが、悪性か良性か、くらいの目星をつけることはできます。
腫瘍の進行度合い
腫瘍の種類が特定されるまでに平行して、もしくは特定されてから、その腫瘍の進行度合いを確認します。特に悪性腫瘍が疑われる場合は、この情報が重要になってきます。腫瘍の進行度合いを診断するために、当院で使用している検査機器などをご紹介します。
レントゲン検査
胸の中、お腹の中、骨など、外から触ってもわからないような部位にある腫瘍を探すために用います。麻酔は必要ないので、動物に大きな負担を負わせることなく検査を行うことができますが、あまり細かい情報を得ることはできません。
当院は2017年に、DR装置を導入しました。DR装置は、X線テレビ装置にデジタル画像処理コンピュータを組み合わせたものです。この機材によって、今までよりも高画質の画像を、オーナー様に即時に提供できるようになりました。
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このように、DrやVTによる保定をして撮影します。
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モニターに表示されたレントゲン画像です。
撮影後数秒で、このような画像を得ることができます。
超音波検査
レントゲンと同様、外から触ってもわからないような部位にある腫瘍を探すために用います。麻酔は必要ありません。レントゲンよりも距離や大きさ、リアルタイムの情報を得るのが得意で、皮膚の下やお腹の中の診断に用いられることが多いです。胸の中や骨の診断を行うのはあまり得意ではありません。
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局所エコー
腫瘍の超音波画像です。大きさ、中がつまっているのか空洞があるのか体表からの距離など、色々な情報が得られます。
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局所ドップラー
腫瘍の中や周囲の血管を見ることができます。
CT検査
コンピューター断層撮影法(Computed Tomography)を訳したもので、X線を用いて動物の体の断面を画像化します。さらにこの断面の画像をコンピューター処理して、色々な方向からの断面像を得ることができ、腫瘍の発生場所の特定や、手術支援のための情報を得ることができます。
動物では全身麻酔をかける必要があります。
頸部の皮下に見つかったできものをCT撮影したものです。これは甲状腺癌でした。
このように、動物を輪切りにしたような断面像を得ることができ、これを集めたものをコンピューター処理すると、様々な情報を得ることができます。
これは膀胱の移行上皮癌です。矢印で示しているところが膀胱内の腫瘍です。
膀胱内の位置や、尿管・尿道など近くの構造との位置関係などが把握できるので、手術計画を立てるにあたって非常に役立ちます。
甲状腺癌のCT画像を加工して、3Dにしたものです。腫瘍が気管を圧迫し、食道や大きな血管に接していることが、通常のCT画像よりもさらに視覚的にわかりやすくなります。
腹腔鏡
1cm前後の小さな穴からお腹の中にカメラを入れ、テレビモニター上に映し出された映像を見ることで、お腹を大きく開けなくてもお腹の中の状態を調べることができる新しい方法です。同じような切開創から鉗子などを入れることによって、簡単な処置や手術を行ったり、腫瘍の組織を切除して、病理検査を行うこともできます。
お腹を大きく開ける必要がないので、動物の負担を少なくすることができます。
CT検査と同様、全身麻酔をかける必要があります。
このように、画面に映っている体腔内の臓器や、獣医師自身が持っている鉗子などの器具を間接的に見ながら、操作を行っていきます。
画面に映っている画像です。これは肝臓と、胆嚢になります。
腫瘍の場合、肝臓など腹腔内の臓器にできた腫瘍のサンプルを採材するのに非常に役に立ちます。
腫瘍の治療 ~治療の三本柱~
外科療法
腫瘍の治療の中では言わずと知れた、原則として最も効果の高い治療です。
完全切除ができれば完治も可能であり、それができなくとも腫瘍のサイズを減らすことによって、他の治療の効果を出やすくしたり、動物のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を向上させる効果が期待できます。
まさき動物病院では、以下のような腫瘍に対して外科手術の経験を持っています。
- 皮膚腫瘍(皮弁形成、皮膚移植)
- 乳腺腫瘍
- 肥満細胞腫(皮膚・内臓)
- リンパ腫
- 肛門周囲の腫瘍(肛門周囲腺腫、肛門嚢アポクリン腺癌など)
- 口腔の腫瘍(口蓋、歯肉、歯槽、顎、舌など)
- 消化器の腫瘍(胃、小腸、大腸、膵臓、肝臓)
- 脾臓の腫瘍
- 泌尿器系の腫瘍(腎臓、膀胱、尿道)
- 生殖器の腫瘍(卵巣、子宮、陰茎、前立腺)
- 骨・関節腫瘍
- 呼吸器系の腫瘍(鼻腔、気管、肺)
- そのほかの胸腔内腫瘍(胸膜、胸腺、リンパ節)
- 甲状腺腫瘍
- 副腎腫瘍
- 眼球・眼瞼の腫瘍
脾臓の腫瘍です。出血が伴っていることも多く、状況によっては緊急手術になることもあります。
脾臓は全部取り除いても生きていくうえで問題にはならないので、全部切除して病理検査に回しました。
上顎の歯肉にできた悪性黒色腫です。鼻腔内にも入り込み、一部顎の骨を融かしていたため、顎骨ごと切除を行いました。
化学療法
抗がん剤による内科治療です。
全身に作用し、腫瘍細胞の増殖をおさえることによって、外科治療後の再発や転移を防いだり、血液のがんのような全身に作用させないといけない種類の腫瘍の治療に用いられます。
いくつかの種類があり、単剤で使用する場合と、複数の抗がん剤を組み合わせて使用する場合があります。
副作用のリスクがあります。これを非常に心配されるオーナー様が多いと思われます。使用が必要になるときには、必ず詳しくご説明をさせていただいています。
まさき動物病院では、以下のような抗がん剤を所有し、使用しています。
- ビンクリスチン
- ビンブラスチン
- シクロホスファミド
- クロラムブシル
- メルファラン
- メトトレキサート
- アドリアマイシン(血管外漏出対策としてデクスラゾキサン)
- アクチノマイシンD
- L-アスパラギナーゼ
- カルボプラチン
- CCNU
- シタラビン
- ブレオマイシン
- プロカルバジン
- イマチニブ
- トセラニブ
当院で扱っている抗がん剤の一部です。
点滴で時間をかけて投薬するものから、内服として飲ませるものまで種類はさまざまです。
放射線療法
外科療法では完全切除が不可能な場合や、外科が適応できない状況である腫瘍に対して実施する局所療法です。動物の場合は全身麻酔が必要となりますが、腫瘍周囲の臓器の機能を温存することができるメリットがあります。単独で行う場合と、他の治療と組み合わせて行う場合とがあります。
この治療が適切であると判断された場合、当院には設備がないため、岐阜大学の腫瘍科をご紹介しています。
そのほかの治療
光線温熱療法
光線温熱療法は、がん細胞が42℃で死滅するのに対し、正常な細胞は45℃まで大丈夫であるという性質を応用したものです。
この温度差を利用してがん細胞のみを壊死させる治療方法です。少量の薬液を患部に注入した後、温度管理しながら近赤外線を20分間照射させます。
BRM療法
BRMは「Biological Response Modifiers」の略で、「生体の反応を変化させるもの」という意味があります。BRM療法は、「がん細胞に対する宿主(患者)の生物学的応答を修飾することによって、治療効果をもたらす物質または方法」と定義されています。
がん細胞を直接攻撃する治療法ではなく、あくまで体の免疫力を高める治療法(非特異的免疫療法)ですので、がんに対して劇的な効果を望むことは基本的にできませんが、抗がん剤のような副作用もないので患者さんの負担は少ないです。
ステント治療
たとえば尿管・膀胱・尿道に腫瘍ができると、その影響で尿が通る管が閉塞してしまうことがあります。腫瘍を取り除くことができればよいのですが、それができない(もしくは腫瘍の進行の度合いによりできる段階ではない)場合に、患者さんのQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)を向上するために行う治療のひとつがステント治療で、治癒につながるわけではありません。ステントと呼ばれる特殊な管を患部に留置し、その部位がつぶれたり塞がったりすることを防ぎます。Cアームと呼ばれる外科用レントゲン撮影装置を使って挿入したり、開腹して肉眼的に見ながら挿入したりと、方法はさまざまです。
他の病院との連携
当院で実施することが困難な検査や治療、例えばMRI検査、特殊な手術、放射線治療など、が必要であると判断された場合は、他の動物病院をご紹介する場合があります。
また、当院での検査や方針が提示されたときに、他の病院の意見も聞いてみたい、と思われることもあると思います。そういった場合にも、セカンド・オピニオンを受けていただくために他の動物病院をご紹介させていただきます。