整形外科診療
骨折編
整形外科疾患(骨折・脱臼)はより高い専門性と経験が必要な治療となります。
人でいう「骨折」は多くの場合、ギブスで治すイメージがあり、手術などの外科治療をしなくても時間とともに治癒すると思われがちです。
動物の場合、写真1のようにひどく骨がずれてしまいます。これをギブスだけで真っ直ぐに治すことは困難です。
従って、動物においての骨折治療は、多くの場合固定手術を必要とします。
原理原則を守った治療を行っても、治癒するまでの2~3か月間に再度悪化(癒合不全・再骨折)を生じるケースがあります。
昨今は皆様のペットに対する生活環境がかなり良いため、交通事故などによる骨折治療がかなり減少しています。
喜ばしい事でありますが、各病院の骨折治療の経験値も少なくなり、積極的に治療する病院数も減少しています。
私は開業後18年間骨折治療に取り組み、様々なセミナーや実習、整形外科二次病院の先生方にご指導もいただきながら経験を積んでまいりました。(もちろん誠に申し訳ございませんが、ご家族の皆様にご不安とご迷惑をおかけした経験もございます)
近年の当院における整形外科手術症例数は年間約50件※1を数えます。
可能な限り1回の手術で完治する様に、原理原則を守りながら、様々な手術方法を選択します。どの手術方法が最良なのか?どんなインプラントを選択すべきなのかは、治療する獣医師の経験に基づいて行われます。従って、たくさんの経験(うまくいかなかった経験も含めて)を培った方法であれば、その方法が最も良い手術方法となります。
プレートやスクリューといった骨インプラントは時代とともに急速に変化しております。より確実な治癒を目指し、当院も積極的に導入しております。最新の知見や情報も積極的に学び取り入れております。
何より、ご家族の動物たちが、元気な姿で走り回れることを達成できるように、リハビリ分野も含め、安心して治療できる体制づくりに取り組んでおります。
※1出張手術も含む。脱臼手術も含む
当院で用いている創外固定および骨インプラント固定手術法
- ①プレート固定法
- ②LCP※2を用いたロッキングシステムプレート固定法
- ③創外固定法
- ④髄内ピン法およびワイヤリング固定法
- ⑤プラスチックギブスによる外固定法
※2LCP シンセス(株)が提供するLocking Compression Plateシステム
症例
脱臼編
イヌやネコは大きな外傷(落下や交通事故など)により股関節、肩関節や肘関節などが脱臼し強い痛みを伴う場合があります。また、特に小型犬において(ネコにも比較的存在しますが)膝関節の膝蓋骨が内方もしくは外方に先天的に脱臼し痛みや変形を伴う場合もあります。脱臼している関節は時に元に戻し、安静にて治る場合もありますが、残念ながら外科手術をしなければいけないケースも多く存在します。
最も多いケースとしては、小型犬における膝蓋骨内方脱臼(図1)です。ほとんどの小型犬が先天的に罹患しており、強く痛みを伴うケースでは矯正手術をする場合があります。近年、この病気の好発犬種であるTプードルの飼育頭数が増加しているため、不幸にも外科手術になってしまうケースが多く見られます。
図2のように大腿骨の滑車溝と呼ばれる溝を深く掘り(ブロックリゼッション)、下腿骨の脛骨粗面を切り取り、外側に移動しピンで固定する(脛骨粗面外方転移術)、緩んだ関節包を切り取り縫い縮めことを組み合わせて整復します。
この手術も原理原則と感覚が大切な手術です。
症例
椎間板ヘルニア編
近年好発犬種であるダックスフントの飼育頭数が減少傾向にあるため、椎間板ヘルニアによる四肢麻痺や下半身麻痺にかかる動物たちも減少傾向にあります。当院でも年間40件以上の手術件数がざいましたが、現在は年間10~20件程となりました。
しかしながら、この病気にかかると自由に動けない、場合によっては排尿もできなくなり、生活の質が著しく低下します。
当院では5年前からCT検査装置を導入し迅速な椎間板ヘルニア診断を行えるようにしております。CT結果はご家族の皆様にも大変わかりやすく、一緒に内科・外科治療方法を考えることができます。また、わざわざ他施設に出向いて検査を行い、手術を実施する時間ロスをなくすことができます(MRI検査が必要な場合を除きます)。
手術はわずか数ミリの脊髄神経の周りの骨を削り、脊椎管内に突出し神経を圧迫している椎間板物質を取り除きます。
- ①脊髄神経へのダメージを最小限にすること。
- ②可能な限り椎間板物質を取り除くこと。
- ③手術後の椎骨の安定性を損なわないこと。
が重要となります。
そのためには、獣医療においても手術顕微鏡を用いて繊細に手術することが大切と言われ始めております。
当院でもより手術成績をよくするために、4年前より手術顕微鏡を導入しております。
また、手術方法も脊椎外科セミナーや二次病院の先生方にご指導いただき、最新の治療方法を選択しております。
不幸にも麻痺が取れない動物たちにも更なる治療方法として「幹細胞移植療法」も導入しております。
この病気にかかった動物たちがより早く元の状態に戻れるように今後とも努力してまいります。
前十字靭帯断裂
膝関節の前十字靭帯が部分断裂から完全断裂に移行していく疾患です。以前は、人間の場合と同様に「急激な運動に伴う突然の断裂症」と考えられていましたが、近年の研究にて「部分断裂が徐々に進行し完全断裂に移行する慢性疾患」とされています。
症状は突然の後肢挙上(完全に挙上する場合と、時折着地するような場合とがあります)です。性別、品種に関係なく7歳以上でよく発症します。ただし、1歳以上で発症する場合もあります。合併症として、完全断裂に移行した場合、半月板損傷を伴うことがあります。
診断は、シットテスト、膝関節周囲の触診(バッドレスサイン)、脛骨前方引き出し試験(ドロアーサイン)、脛骨圧迫試験などの感覚的な診察と画像診断検査(膝関節のレントゲン検査・超音波検査、関節鏡検査)、関節穿刺による関節液検査、血液生化学検査を行います。
治療方法は内科的管理と外科療法があります。前十字靭帯断裂症の80%以上で外科介入が必要と言われています。海外の文献では、小型犬は内科管理でもよいとされていましたが、近年治癒までの時間や患肢の負重状態を考えると、やはり小型犬でも外科介入が最も良いとされています。
手術方法は大きく分けて2種類あります。
- 1.人工靭帯(糸)による関節外法
- 2.骨切り矯正手術
最新の研究では、2.骨切り矯正手術(TPLO法)の治療成績(術後300日の患肢の力のかけ具合)が最も良いとされています。ただし、人工的に骨を切り、矯正する手術ですから、手術侵襲が大きな方法であり、骨折手術に精通していなければ行えない方法の1つです。また、靭帯が変性(組織が変化していく)し徐々に切れていくため、完全断裂前に前十字靭帯の変化を関節鏡で早期に発見し、完全断裂前にTPLO手術を実施することが一番の方法とされています。
当院では、上記の内容を踏まえ、それぞれの方法の利点欠点を十分に検討し治療補法を選択しております。関節鏡も含め、すべての方法をご提案することが可能です。